孤高の脳外科医は初恋妻をこの手に堕とす~契約離婚するはずが、容赦なく愛されました~
口に出して、言葉にしたいのに――。
心の奥底から湧き上がる熱い想いが、堰を切って溢れ返り、大事な言葉をのんでしまう。


「わ、わた」


ひくっと喉が鳴る。
声にならない、伝えられないのがもどかしい。
――情けなくて、悔しい。
こういう思いを、私は十五年も前に、霧生君に味わわせていたんだ……。


伝えたいたくさんの思いが、私の中で統制を失い、我先にと我儘に暴走する。
私はなにかに突き動かされる気分で、彼の白衣の襟を両手で掴んで引っ張り――。


「……っ」


小さく息をのむ気配が、唇をくすぐった。
軽く触れるだけで離し、頭から湯気が立ちそうなほど、顔を真っ赤に染める。
霧生君が、呆けた顔で私を凝視して……。


「……くっ」


顔を伏せ、くぐもった笑い声を漏らした。


「ズルいな。僕が不慣れだって承知で、キスで誤魔化すなんて」


鼻先が掠めるほどの距離で、私の頬を両手で挟み込む。


「ちっ、ちが……」


喉に声が引っかかって涙目になる私を、意地悪に射貫いた。


「……まあ、いいや。後で、嫌ってほど言ってもらう」


不敵に微笑んで、手を離して一歩離れ……。


「帰ろう、霞」


小気味良く首を傾げ、私にまっすぐ手を差し伸べた。
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