孤高の脳外科医は初恋妻をこの手に堕とす~契約離婚するはずが、容赦なく愛されました~
「ちょっ、なっ……?」

「暴れないで。僕も長時間のオペで疲れてるし、申し訳ないけど落っことす可能性があるから」


淡々と警告されて、私はジタバタと動かしていた両手足をピタリと止めた。
『落っことす』なんて言ったわりに、霧生君は疲れを感じさせないしっかりした足取りで、リビングダイニングを横切った。
自分の寝室に入ると、躊躇なくベッドに向かう。


ドサリと真ん中に下ろされ、私は身を捩って、ベッドに乗り上げて膝立ちになる彼を見上げた。
彼のベッドで、下から仰ぐ体勢が落ち着かない。
いやがおうでも、去年のクリスマスのことが脳裏をよぎり、もしかして、と思考が繋がる。


「た……たった今、疲れてる、って」


勘違いだったら、恥ずかしい。
私は、彼を正視できずに目を泳がせた。
霧生君は、「うん」と相槌で返してくる。


「でも、今日みたいな大手術の後は、それを上回る高揚感で、アドレナリンが放出される」


医者らしい状況説明。
それは、私にも覚えのある感覚だけど。


「オペが終わるのを、ずっと心待ちにしてたんだ。疲れなんかどうでもいい」


霧生君が急いたように言い捨て、ニットを裾から捲り上げた。
首からひっこ抜いて脱ぎ捨てる様にも確かな情欲が滲み出ていて、ただでさえ速い私の鼓動がリズムを狂わせる。
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