孤高の脳外科医は初恋妻をこの手に堕とす~契約離婚するはずが、容赦なく愛されました~
「心待ちって……」


彼に目の焦点を定めることができず、ソワソワして言葉を挟む。


「まだ惚ける? 僕は今夜、君を抱くつもりでいた」

「!」


これだけ直情的に言われたら、惚けようがない。


「……頼むから、拒まないで。ここでお預けされたら、気が狂いそう」


霧生君が、切なげに目元を歪ませる。
私の心臓は、ドキドキを通り越して、ドッドッと激しく拍動した。


「っ……」


限界を突き抜ける胸の高鳴りで、言葉に詰まる。
だけど、言わなきゃ。
私の中にある、揺るぎない想いを。
私もちゃんと、言葉で伝えなきゃ――。


「す、き」


喉に引っかかる声を絞り出し、両腕を伸ばした。
私を見下ろす霧生君が、虚を衝かれたように目を瞠る。


「私も、霧生君が好き。大好き……」


上体を浮かせて、彼の首に両腕をしっかりと巻きつける。
私の耳元で、霧生君が息をのんだ。
そして。


「好きな子に好きって言ってもらえるって、こんな嬉しいもんなんだ……」


なにか噛みしめるように呟くと、私の背中と頭に腕を回し、ギュッと強く掻き抱き……。


「霞……今夜、全部僕のものになって」


私の鼓膜に刻みつけるように囁いて、私に体重を預けて覆い被さった。
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