孤高の脳外科医は初恋妻をこの手に堕とす~契約離婚するはずが、容赦なく愛されました~
心地よいフローラルの香りがする彼の髪に顔を埋め、ホッと息を漏らす私に、


「……ごめん」


バツが悪そうに、謝った。


「僕に裸見られるの、あんなに恥ずかしがってた霞が、僕の隣で無防備に寝てるの見てたら、襲いたくなって」

「!?」


なかなかドギツいことをさらりと言われて、私はパッと腕を離した。


「頭冷やしたから、大丈夫」


上目遣いでニヤリと笑う霧生君は、別人みたいにあざとい。


「も、もう……」


朝っぱらから、熱湯で茹で上げられたタコになった気分で、彼の隣にストンと腰を下ろす。
意味もなくソワソワと視線を動かし、


「あれ?」


テーブルに置かれていたものに目を留め、身を屈ませた。


「ああ、それ」


霧生君が私の行動に気付き、長い腕を伸ばして取り上げたのは、中学の卒業アルバムだった。
私たちD組のクラス写真のページが開いてあって、そのまま自分の膝に置く。


「僕の、宝物」

「……え?」


アルバムに目を落とす彼の柔らかい横顔に、私は耳を疑って聞き返した。


「霞がなにを勘違いして暴走したか知らないけど……いい思い出なんかなにもないのに、これだけは今まで手放さずに、手元に置いてた」


霧生君が長い指でなぞったのは、ページの隅っこに載っている私と彼の写真だ。
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