孤高の脳外科医は初恋妻をこの手に堕とす~契約離婚するはずが、容赦なく愛されました~
「バスケ部の、最後の総体の後だったかな……。妹に情報収集頼まれて。私、二年の時同じクラスだったから、いいよーって引き受けて」

「…………」

「そ、そう言えば! 私が霧生君に避けられてるって思うようになったの、ちょうどそのくらいの頃だった……?」


語尾を尻すぼみにしながら、そおっと横から窺うと、霧生君は額に手を当ててガクッとうなだれた。


「マジか。僕は、優しくしてその気にさせておいて手の平返す、なんて残酷な女だって……」

「ひっ、酷っ……!!」

「つまり僕は、底抜けにお人好しな君に、繊細な少年心を弄ばれたってことか」


あまりの言われように憤慨して、頬を膨らます私の前で、ガシガシと頭を掻く。
けれど。


「本当に、君は変わらない」


困ったように眉をハの字に下げ、私の頬に手を伸ばした。
くすぐる手つきが意味深で、私は「ん」と声を漏らして片目を瞑る。


「昨夜も。こっちはいっぱいいっぱいだったってのに、散々煽ること言ったりしたり……」

「え?」

「……そう言えば、なんで今は『颯汰』って呼んでくれないの?」


今気付いたと言うように、ムッと口を曲げて問われ、微妙に目を泳がせた。


「ええと……深い意味はないけど、やっぱりちょっと照れ臭くて」
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