孤高の脳外科医は初恋妻をこの手に堕とす~契約離婚するはずが、容赦なく愛されました~
霧生君は、ひょいと肩を竦めると、


「とりあえず、メシの支度するか」


私の頭をポンと叩いて、スッと立ち上がった。


「シャワー、浴びておいで。その間に作っておくから、二人でのんびり食べよう」


スラックスのウエストに親指を引っかけ、肩越しに見下ろして促されて、私の心臓がドキッと跳ねる。
キッチンに向かう彼の背を追って、私もソファから立ち上がった。


「フレンチトーストとエッグベネディクト、どっちの気分?」


わざわざ背を屈めて冷蔵庫を覗き込む彼の後ろに回り、ぎゅうっと抱きつく。


「霞?」


霧生君が、バターと卵を持った手を胸の高さに持ち上げ、顔だけ振り向かせる。


「……大好き、颯汰」


私が背中に頬を擦りつけ、お腹に回した両腕に力を込めると、ピクッと反応した。


「はあ……」


声に出して溜め息をつく。


「まったく、君は……。朝から半端じゃなくドキドキしてもらっていいの?」


私は正面に回って、上目遣いで彼を見つめた。
霧生君だって、目元を情欲でけぶらせて、反則なくらいの色気を漂わせてるくせに。
彼は両手に食材を持ったまま、『お手上げ』みたいなポーズを取って私を見下ろす。
互いに探り合うぎこちない沈黙は、ほんの束の間――。


「まあ、いいか」


霧生君はそう言って、食材をキッチン台に置いた。
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