孤高の脳外科医は初恋妻をこの手に堕とす~契約離婚するはずが、容赦なく愛されました~
「強い意志は、言葉に魂を宿します。先生の言霊には、私を救うという強い思いがこもっていました。だから、信じられた。今こうして、お礼を言って退院できるのは、本当に先生のおかげです」


颯汰は意表をつかれた顔をして、照れ臭そうにはにかんだ。


「酒巻さんのお言葉、ありがたく頂戴いたします」


酒巻さんが、私の方を向いた。


「ご退院、おめでとうございます。どうぞ、お大事になさってください」


私の挨拶に、噛みしめるように何度も頷き……。


「霧生先生を支えてくれたのは、あなたですね?」


まっすぐな目で断定的に問われ、私はちょっとたじろいだ。


「い、いえ。私だけじゃないです」


恐縮しながら、姿勢を正す。


「一色先生や、セラピストさんたちも……」

「ああ、いえ。手術中ということではなく」

「え、っと……?」


少年のように悪戯っぽく動く瞳に戸惑い、おずおずと声を挟む。
酒巻さんは、颯汰を見上げた。


「脳外科医とは言え、あの状況で他人の機能を……言葉を守りたいと言えるのは、自分自身がそれを失いたくないという強い思いがあるからこそ、です。霧生先生はあなたに、どうしても伝えたい言葉があったのでは?」

「っ……」


颯汰が口元に手を当て、明後日の方向に視線を逃がす。
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