孤高の脳外科医は初恋妻をこの手に堕とす~契約離婚するはずが、容赦なく愛されました~
惚けるような行動は、十分答えになったようだ。


「霧生先生とあなたには、若い頃の私と家内によく似た空気感があるんですよ」


酒巻さんはふふっと笑い、一歩離れて佇む奥様を見遣った。
視線を受けた奥様が、黙って目元を綻ばせる。


「妻は、中学時代の同級生なんです」

「! そうでしたか」


目を瞠った私に、酒巻さんが相槌を打った。


「ですから、今先生とあなたを見ていたら懐かしくなって……なんとなく、ね」


自分に納得する様子に、私は落ち着かない気分で目を彷徨わせる。


「先生、大事な言葉は、伝えられましたか?」


質問を振られた颯汰が、口元から手を離した。


「……はい。私としては」


居心地悪そうに、ツーッと視線を横に流す。


「でも彼女、とんでもなく鈍いんで。私の言霊も彼女にはなかなか……」

「っ、そう……霧生先生っ?」


さらりとボヤかれ、私は憤慨して目を剥いた。
『颯汰の言い方が回りくどいの!』と言い返したいのを寸でのところで堪え、代わりにじっとりと睨む。
そんな私たちに、酒巻さんは肩を揺らしてくっくっと笑い出した。


「仲がよろしいようで、よかった」

「あ、いえ……はい……」


片目を瞑ってからかわれ、私は変な汗を掻きながら身を縮める。
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