孤高の脳外科医は初恋妻をこの手に堕とす～契約離婚するはずが、容赦なく愛されました～

「っ……す、すみません。私、さっき会ったばかりの見ず知らずの人に、つらつらとどうでもいい話をしてしまい……！」


ここに来てやっと我に返り、カウンターに額を擦る勢いで頭を下げた。
すると。


「変わらないね、君は。相変わらずお人好しでお節介」

「……相変わらず？」


まったく想定していなかったことを言われて、私は不可解な気分で顔を上げた。


「あの男には鬱陶しいかもしれないけど、僕には最適だ」

「最適……？」


言われた意味がわからず、男性の横顔を注視する。
彼は、「そう」と相槌を打ち、鼻根で眼鏡をくっと上げて、


「親をがっかりさせたくないんでしょ。だったら、僕と結婚しない？」


小気味よく首を傾げた。


「……は？」


一瞬、思考回路が全面停止して、私が聞き返すまでにたっぷり二拍分の間が空いた。
男性は、グラスに残った琥珀色の液体を、ぐいと飲み干した。
コトンと音を立ててカウンターに戻しながら、「ああ」と思い出したように顎を撫で……。


「君には恩を売るより、甘えて乞う方が効果的か。君と結婚できれば、僕にもメリットがあるから……」

「っ……す、すみませんっ、私失礼しますっ！！」


私の愚痴に辛抱強く付き合ってくれて、『いい人』なんて思ってた。