孤高の脳外科医は初恋妻をこの手に堕とす~契約離婚するはずが、容赦なく愛されました~
でも違う。
会ったばかりの女性に『結婚』なんて、本当は危ない人だったんじゃない……!?


背筋に、ゾワッと寒気が走る。
得体の知れない危険を感じて、私は彼が話す途中で力いっぱい遮り、背の高い椅子から飛び降りた。


「あ、ちょっと」


男性が身を捩って呼び止めてくるのを振り切り、荷物を胸に抱え込む。
そのまま出入口に急ぎ、転がるように店を出た。
さっきの激しい寒気で、完全に酔いは醒めた。
なのに、心臓は早鐘のように打ち、猛烈に鼓動が速い。


私が住む看護師寮は、駅からだと病院に引き返す途中にある。
ゆっくり歩いても、せいぜい五分ほどの距離だ。
追いかけて来られて、住所を知られたりしたら――。
考えると怖くて、振り返らずに先を急ぐ。


私、あの人に身元がわかるような個人情報を、ポロッと言ったりしてないよね?
――いや、看護師だって言っちゃった。
病院の目の前で会ったし、勤務先はバレバレだ。
でも、うちの病院、看護師だけで何百人もいるし……。


あ。そもそも、あの人は何者?
病院から出てきたけど、もしかして同じ医療職?
出入りの業者さん……まさか患者さんとか?


病院で鉢合わせしそうな可能性ばかり、やたらといっぱい浮かび上がる。
それらをいかにして回避するか。
私は追い詰められた気分で、目まぐるしく思考回路を働かせた。
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