孤高の脳外科医は初恋妻をこの手に堕とす~契約離婚するはずが、容赦なく愛されました~
彼はまず、麻酔科医に目を向けた。


「麻酔導入、気管挿管、万事順調です」


彼の視線を受け、麻酔科医がチラリとモニターに目を落として答える。
続いて、器械出し看護師。


「物品、すべて揃っております」


彼は最後に、私に目を留めた。


「病棟看護師から、オペの緊張からか、夜間浅眠との申し送りを受けました」


私の報告に、ピクリと眉尻を上げる。


「バイタルは?」

「入室時血圧、百三十の八十。問題ない範囲です」


続けて幾つか短い質問を投げてきて、「OK」と呟く。


「大丈夫。二時間、よーく眠れますよ」


麻酔科医が親指を立てて言葉を挟むと、皆の間に小さな笑いが起きた。
いつもあまり表情を動かさない霧生先生も、わずかに目尻に皺を刻んで苦笑する。
でも、すぐに気を引き締め、


「では、よろしくお願いします」


キリッと一礼した。
術前タイムアウトが終了して、スタッフがそれぞれ配置につく。


「鼻粘膜切開、粘膜剥離開始します。スリットナイフください」


霧生先生の第一声で、オペが始まった。
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