孤高の脳外科医は初恋妻をこの手に堕とす~契約離婚するはずが、容赦なく愛されました~
そうなると、やっぱり寂しい思いが胸に充満する。
そのせいだろうか。


「あの……霧生君、クリスマスとかどうする?」


私は遠慮がちに、彼に訊ねていた。


「クリスマス?」

「あっ、ええと……今日、手術部の同期とクリスマスの話題になって」


聞き返す彼に、声を上擦らせて説明を続けた。


「普段は、クリスマスなんてイベント、当日まで忘れてるんだけど……」

「飲みにでも行くの? 行ってらっしゃい」


会話の流れを読んだ霧生君が、先回りして快く送り出してくれる。
この三ヵ月、私たちはこうして干渉せずにいたから、心地よく同居生活を送ってこれた。
彼の理解ある反応はありがたいし、私も今まで気にしたことがなかったのに。


「……断っちゃった」


私はぎこちなく笑って、俯いた。
「え?」と聞き返され、膝の上でギュッと手を握りしめる。


口にしてしまってから、自分でもなにを言ってるんだろうと思った。
霧生君が言った、名残惜しさ。
それが本当に彼の中にあるなら――『夫婦』で迎える最初で最後のクリスマス、一緒に過ごそうと言ってくれることを期待していたと自覚する。
霧生君が私をジッと見ているから、自分が痛くて居た堪れない。


「っ……ごめん、なんでもな……」

「クリスマス、一緒にご飯食べる?」


自分の言葉を取り消そうと口走ると、穏やかに阻まれた。
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