孤高の脳外科医は初恋妻をこの手に堕とす~契約離婚するはずが、容赦なく愛されました~
「……え?」

「って言っても、僕も茅萱さんも仕事だし。今からお洒落なレストランとかは無理だし……ここで二人で」


顎を撫でて思案する横顔に、思わず目を凝らす。


「大して特別感もないけど、それでよければ」


霧生君は前に身を屈ませ、ニッと口角を上げる。
私は、思わず目を瞬かせ――。


「う、うん」


胸にじんわりと、温かいものが広がるのを感じながら、力いっぱい、何度も首を縦に振って応えた。


「じゃあ、約束」


霧生君はそう言って、ソファから立ち上がった。


「パリから持ち帰った、ブルゴーニュ産のいいワインがあるから、一緒に飲もう」

「わ、クリスマスっぽい!」


私が声を弾ませると、「でしょ」と悪戯っぽく笑う。


「大晦日は君が料理作ってくれるって言うから、クリスマスは僕が適当に作るよ」


ソファに放ったコートを拾い上げ、スタスタと歩き出した。


「え。でも、霧生君の方が忙しいのに……」

「チキンでよければ、どうにでもなる。じゃ、僕、風呂入って寝るから」


霧生君はリビングのドア口に向かいながら、肩の高さに上げた手をヒラヒラと振った。


「あ、うん。……お休み」


リビングから出ていく背を立ち上がって見送って、私はやけに弾む胸に手を当てた。
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