孤高の脳外科医は初恋妻をこの手に堕とす~契約離婚するはずが、容赦なく愛されました~
「見た目もお洒落だし、味も抜群だし」

「そう? チキンなんて、塩胡椒でどうとでもなるよ」


霧生君は首を傾げて、フライパンに蓋をした。
そして、隣のコンロのパスタポットに、リボン型のファルファッレをザアッと投入する。


「パスタだって、普通のスパゲティじゃないし」

「トマトソースで和えようと思って。スパゲッティーニより絡むから」

「霧生君は、料理の腕もパリ仕込み」

「大袈裟だよ」


私の賛辞に、ハハッと短く笑った。


「僕、一人で外食するのが苦手でね。それでも、店で出されるような美味い物食べたい気持ちは強くて、自分で作るって選択に至っただけ」

「友達と行かないの?」

「わざわざ時間合わせて出かけるのって、面倒臭いでしょ」 


ひょいと肩を竦めて言われると、同じ医療職として通じるところもあり、納得できる。
私は、彼の横顔を見上げた。
ほんの少し躊躇ってから、


「でも、彼女とか……」


遠慮がちに続けた質問は、油が弾ける音と鼻をくすぐる香ばしい香りに遮られた。
霧生君が、フライパンの蓋を外していた。
皮目の焼き加減を確認して、トングでチキンをひっくり返す。
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