孤高の脳外科医は初恋妻をこの手に堕とす~契約離婚するはずが、容赦なく愛されました~
再会した当初、居酒屋のカウンター席に並ぶことが続いたし、その位置関係がなんとなく落ち着く。
食事中仕事の話になると、資料やスマホの画像を見せて説明してくれたりするので、いちいち移動する手間が省け、早い段階から並んで座るのが定着した。


今日も私は、食器棚からお洒落なワイングラスとプレートをセレクトして、隣同士に並べた。
綺麗にセッティングを完了させ、「ふう」と声に出して息を吐いて自己満足すると、


「茅萱さん、チキン焼けたよ」


霧生君がカウンター越しに呼びかけてきた。
キッチンを覗き込むと、まな板の上にパリパリに皮が焼けたチキンが置かれていた。
霧生君は、オペ中と同じしなやかな手つきで、包丁を入れている。


いい塩梅に中まで火が通って、美味しそう。
私は無意識にゴクッと喉を鳴らした。
すると、霧生君が目尻を下げて苦笑する。


「茅萱さん。はい、味見」


私の前まで歩いてきて、指でくいと顎を持ち上げた。


「っ、えっ」


唐突な行動にギョッと目を剥く私に構わず、親指で私の下唇を押さえ、反対の手に摘まんだチキンの欠片を放り込んだ。


「!?」

「どう? 美味しい?」
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