孤高の脳外科医は初恋妻をこの手に堕とす~契約離婚するはずが、容赦なく愛されました~
それが、かれこれ三ヵ月ほど前のこと――。


私は彼の背中が見えなくなるまで見送って、麻酔科医に患者の覚醒状況を確認し、ICUに連絡をした。
ほどなくして、迎えに来た看護師に申し送りをして、患者を送り出す。


肩を解しながらスタッフ準備室に入り……足を止めた。
二台の洗面台の前、ガウンとキャップを外してスクラブ姿の霧生先生に、女性研修医が話しかけている場面に出くわしてしまった。


確か、ローテーションで先週から脳外科に来ている、高村(たかむら)先生だ。
ほっそりとした長身で、長い黒髪を頭の真ん中の高さで一つに纏めている。
なかなかの美人でもある彼女が、手洗い中の霧生先生になにか熱く語りかけていた。


「先生がパリにいらした時に書かれた、脳覚醒下術と後遺症へのアプローチの論文、拝読しました」

「そうですか」


霧生先生の相槌は素っ気ないけど、彼女はそれに気付かない。


「あの……お忙しいとは思いますが、一度ゆっくりお話聞かせてもらえないでしょうか」


ちょっと控えめな口調に転じると。


「霧生先生、高校時代からずっとパリ生活だと伺ったので、是非、美味しい日本食レストランなんかで……」
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