孤高の脳外科医は初恋妻をこの手に堕とす~契約離婚するはずが、容赦なく愛されました~
私の反応を試しているのか、軽く啄む唇の動きはたどたどしい。
心臓ばかりがバクバクと早鐘のような音を立て、私の体内で反響して木霊する。


自然と後ろに傾く身体を支えようと、床に突いた腕に力が入らない。
圧しかかってくる彼と二人分の体重に耐え切れず、私は床に倒れ込んだ。


霧生君が、ゆっくり唇を離した。
私は、離れていく温もりを追って、ぼんやりと目を彷徨わせた。
四つん這いになって私を見下ろしている彼が、視界の真ん中に映り込む。


「霧生、く」

「……君が嫌なら、やめる」


霧生君は顔を伏せ、なにかを堪えるようにブルッと頭を振った。
長い前髪が揺れ、目元を隠す。
ほんの些細な仕草から、今まで知らなかった彼の熱情が迸って見えて……。


――ゾクッと。
私の背筋を、寒気によく似た痺れが駆け抜けた。


酔ってる。
私も……素面に見えても、霧生君も。
そうじゃなきゃ、私たちがこんなことするわけがない。


そう判断できる理性は、確かに私の中に残っていた。
でも。
……でも――。


「……うん」


私は、そろそろと両腕を持ち上げた。
掴まるものを探して、彼の首の後ろに回す。


「契約結婚の、思い出にしよう」


両腕に精いっぱいの力を込めて身を寄せ、彼の耳元で囁いた。


「っ……」


私の腕の中で、霧生君がピクッと震えた。
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