孤高の脳外科医は初恋妻をこの手に堕とす~契約離婚するはずが、容赦なく愛されました~
夫婦として振る舞う必要のない契約結婚で、今日の今日まで清く正しく健全に心地よい関係を保ってきたのに、最後の最後で身体を重ねるなんて、本能に逆らえなかったみたいだ。


後で冷静になったら、羞恥に駆られ、頭を抱えて身悶えする自分が予想できる。
私だけじゃない、霧生君だって。
私とこんなこと、絶対想定外だったと思うのに。


全身にくまなく施される彼の愛撫は、拙いようで執拗でもあり、どこか熱っぽい。
胸に一点集中されると、不思議なもどかしさに焦らされ、身体が自然に潤うのも彼の計算のような気がする。
彼の術中に嵌ったとしか思えない。
とにかく早く、切なく疼く身体を満たしてほしい――焦燥感と紙一重の強い欲求が湧くのを止められない。


「霧生、く」


酸素を求めた唇の先で、私は掠れた声で彼を呼んだ。
真正面から瞳の奥まで見つめ、角度を変えて彼の薄い唇を食む。
止めどなく打ち寄せる官能の波に抗わず、彼の頭を掻き抱き、汗でしっとり濡れた肌をぴったりと重ねた。


――熱い。
病院ではいつも淡々とドリルを捌き、女を寄せつけないせいで『孤高の脳外科医』とまで囁かれる彼が、私を抱いて、こんなに身体を熱くしている。
力強い心音が振動となり、肌を通して伝わってきて、目が眩むほど恍惚としてしまう――。


「っ、は……茅萱さん」


霧生君が苦しげな声を漏らし、私の首筋に顔を埋めた。
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