孤高の脳外科医は初恋妻をこの手に堕とす~契約離婚するはずが、容赦なく愛されました~
背中に回された手が、背筋をなぞるようにツーッと下りていき……。


「っ」


お腹のあたりに押しつけられた、熱く脈動する感触に、ビクンと身を竦ませる。


「あ……」


思わず目線を下げそうになり、カッと頬を火照らせて彼の肩にしがみついた。


「……いい?」


許可を求める短い言葉に鼓膜を直接刺激され、心臓がドッドッと早鐘のように打つ。
それでも、小さく頷いて応えた。
霧生君は私の反応を確認して、浅い吐息を漏らす。
そして、どこか緩慢に身体を起こした。


私の上から離れていく体温を追って、私はおずおずと彼を見上げた。
霧生君が私の視界を横断して、ベッドサイドのチェストに大きく身を乗り出す。
引き出しから取り出したものが目に映り、ドキッと鼓動が跳ねた。


霧生君、用意してたんだ――。
それってつまり、この三ヵ月、彼にはそういう準備もあったってことで……。


想像すると、落ち着かない。
私はソワソワして、彼から顔を背けた。


ああ、私、本当に霧生君と――。
まさにその瞬間を前に、ドキドキと高鳴る胸に手を置く。
この期に及んで、まだ揺れる気持ちも否めないのに、身体は確かに彼を欲していた。


霧生君が準備している間も、もどかしい。
もどかしい――。
……長くない?


「? 霧生君?」


焦らされているのが不審で、私はベッドに肘をついて上体を浮かせた。
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