孤高の脳外科医は初恋妻をこの手に堕とす～契約離婚するはずが、容赦なく愛されました～

情けなすぎて、彼女の前から存在ごと消し去りたかった。
しかし、『帰ってきて』と泣きそうに笑った彼女に、胸が締めつけられる思いに駆られた。


苦しくて切なくて……ほんの少し甘い疼き。
それは、中学時代、僕とあの女子グループの間に入ってくれた彼女に覚えた、胸の反応とよく似ていた。


十五年の時を経て、再び芽生えた淡い想いに、どんな処置を施すか。
消えてしまいたいほどの羞恥と、彼女の待つ家に帰りたい思いの狭間で葛藤し……。


『On revient toujours à ses premières amou』


人はいつも初恋に戻るという、フランス語の名言を思い出した。
中学時代、茅萱さんと出会っていなければ、僕は女性不振になることもなく、三十歳の今まで未経験にもならなかっただろう。
帰国して彼女と再会しなければ、この秘密を知られることなく、恥とも思わずに墓場まで持って行けたはずだ。


僕にとって茅萱さんは、すべてにおいて元凶、パンドラの箱でありながら、唯一のアキレス腱でもある。
彼女を僕だけのものにしてしまえば、人生最大の恥辱となった機密事項は、僕と彼女以外、誰も知ることはない――。


幸い、茅萱さんは今、僕の『妻』だ。
なんと言われようと、離婚を取りやめる、それで済む。
――どんなに拗らせた初恋でも、人は戻るものなのだろうか。