孤高の脳外科医は初恋妻をこの手に堕とす~契約離婚するはずが、容赦なく愛されました~
***


『君には一生僕について来てもらう』


そんな発言で、私の頭の中を真っ白にしておいて。
霧生君は、ふと壁時計を見遣り、


「……もう十時半か。どうりで腹減った」


やけに呑気に独り言ちた。
「茅萱さんも食べる?」と問いながらダイニングテーブルに向かう彼に、私は返事ができなかった。


彼がトンデモ発言に至った理由……説明を受けるまでもない。
霧生君は自分を『無様』と卑下して、私の前から消したいとまで言った。
それが一転、離婚はしない、一生ついて来てだなんて。
これは、もしかしなくても……。


「しっ、心中!?」


思考回路が一気に繋がり、悲鳴に近い声をあげた時、キッチンで『チン』と気が抜けそうな音がした。
霧生君が、よそったご飯に温めた親子丼の具をのせた丼を両手に持って、戻ってくる。


「とにかく、食べよう」


そう言って私の横を通り過ぎ、リビングのソファに腰を下ろした。
ご丁寧に、私の分もローテーブルに置く。
まさか、この親子丼が最後の晩餐――。


「ほら、君もおいで」


顔を強張らせて硬直する私に、『おいでおいで』と手招きをして、さっさと前に向き直った。
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