孤高の脳外科医は初恋妻をこの手に堕とす~契約離婚するはずが、容赦なく愛されました~
「いただきます」


一人涼しい顔で、行儀よく両手を合わせる。


「ちょっ……霧生君、早まらないで!!」


私は弾かれたようにソファに走っていって、隣にドスンと腰かけながら悲壮に叫んだ。


「うん、美味しい」

「人の話、聞いてる!?」

「茅萱さんもお腹空いてるでしょ。アドレナリン出すぎてイライラしてるんだよ。そんなカッカしてないで。脳血管破裂しても、僕、正月早々妻のオペなんてしたくないよ」


口いっぱいに頬張ってモゴモゴと言われ、言葉に詰まる。
人生最後の食事が、自分が作った親子丼だなんてあんまりだと思うけど、ズバリ指摘されて空腹を意識してしまった。


午後はずっと料理で気を紛らわせていたし、今までつまみ食いもせずに彼を待っていたのだ。
もう何時間も食べ物を口にしていない。


「……いただきます」


不本意ながら、丼を左手に持ち、箸を取った。
霧生君は、私が一口食べるのを横目で見守って。


「美味しい?」

「私が作ったんだけど」

「うん。美味しいね」


嫌みも通じないほど食欲旺盛に食べ進めるのを見ると、反論する気も削がれる。
私は気付かれないように溜め息をついて、隣の彼を視界の端で窺った。
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