孤高の脳外科医は初恋妻をこの手に堕とす～契約離婚するはずが、容赦なく愛されました～

改めて意識すると、今の霧生君には人見知りに近い感覚に陥る。


清潔区域のオペ室に入る時の、孤高とまで称される彼とも違う。
いつもの眼鏡を外し、もっさりした髪を短く整えただけで、生まれたてのように自然体の美しさ。
かの有名な名画『ヴィーナス誕生』を彷彿とさせる神々しさがあり、不覚にも鼓動が騒いで落ち着かない。
霧生君が、こんなに身なりを調えるなんて……。


「これは、死出の旅の準備とか……」


もそもそと親子丼を食べながら、ボソッと独り言ちたのを拾われたようだ。


「ん？」


霧生君は口をもぐもぐと動かし、頬を膨らませて私を見遣る。
視線が交わる前に、私が目を泳がせるのを見て合点したのか、「ああ」と自分の前髪をツンツン引っ張った。


「こんなに短くしたの、小学生以来で。……変？」


首を傾げて問われ、私は力一杯首を振って否定した。


「すごくカッコいいよ。霧生君、もともとはイケメンだし、身なりに気を配れば天下無敵！　この先人生バラ色だよっ」


なんとか心中を思い留まらせようと、大袈裟なほど彼を持ち上げる。
なのに。


「残念ながら、気を配ったわけじゃない。君と結婚を継続するなら、もう必要ないだけ」