孤高の脳外科医は初恋妻をこの手に堕とす~契約離婚するはずが、容赦なく愛されました~
「僕は高尚な主義のつもりでも、人に知られた瞬間恥になる。そういうことだよ」


それもまた正論だ。
私も同意するしかない。
なによりも霧生君本人が、一番気にしているということだろう。
それなら……。


「それじゃあ私は霧生君にとって、むしろ忌々しいだけの存在なんじゃない?」


丼と箸をテーブルに置いて、遠慮がちに質問を挟むと、彼の指がピクリと動いた。


「私のせいで、霧生君は持論を恥だと思ってしまった。私はむしろ……」


『恨まれてるんじゃ?』という言葉をのみ込み、最後は言い淀む。


「……そうだよ。全部君のせいだ」


霧生君はなにか考えるような間を置いて、クッと眉根を寄せた。


「そもそも茅萱さんじゃなかったら。いや、せめて、茅萱さんだと気付かなければ。未知の欲情に溺れることも、君の前で無様な屈辱を積むこともなかった」

「えっ……」


彼の言い回しが意味深に聞こえて、私の心臓がドキッと跳ねた。


「中学の時も今も。茅萱さんだから、僕は……」


強い光を宿した黒い瞳で射貫かれ、目を逸らせない。
心拍が加速して、無意識に胸元をぎゅっと握りしめた。
すると、霧生君がふっと目力を解いた。


「君は本当に、僕のことなんか全然覚えてないんだな」
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