愛人でしたらお断りします!
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「葬儀の後は、ニューヨークに帰っていたんでしょ」
「ああ、二日前に帰国したところだ。ニューヨーク支社から本社の営業部に異動になったんだ」
「忙しい時なのに、わざわざありがとう」
立ちっぱなしだったふたりは、ドアを開けたまま入ろうかどうしようかと迷っている柘植に気がついた。
「なにか飲むかい?」
柘植がやっと声をかけてきた。
「そうだな。俺はアイスコーヒーを、椿は?」
「私はアイスティーをお願いします」
「了解です」
今日の東京は夏日だ。そろそろ冷たい飲み物が恋しくなる時期でもある。
柘植は席に着いたふたりの前にグラスを置くと、
「ごゆっくり。時間は気にしなくていいよ」
と微笑んで言いながら、個室のドアをそっと閉めた。
ふたりだけになると椿は緊張してきた。部屋は急に狭く感じるし、
なにから彼に話せばいいのか頭の中をグルグルと言葉が渦巻いている。
「あの……、蒼ちゃん、いえ、久我さん」
「は?」
「え……と……」
「急に改まった話し方になって、なにが言いたいんだ?」
逡巡している椿に痺れを切らしたのか、蒼矢がはっきり言えと促した。
「あのね……」