愛人でしたらお断りします!
「でも、椿も社長になるのは理解してくれたはずだ」
「はずだ……と言えば聞こえはいいが、結局あの子にはおまえの気持ちは伝わっていなかっただろう」
もう蒼矢に返す言葉はなかった。
椿を自分の伴侶として周囲に認めさせようとしていたが、結局椿は姿を消した。
しかも社長という立場のせいで、二度も叔父の策略に晒されてしまったのだ。
「椿ちゃんの一番の幸せはなにか、よく考えろ」
祖父から告げられた言葉は、蒼矢の胸を抉った。
自己満足という檻の中に愛しい人を囲ったはずだったのに、大事な椿は逃げ去ったのだ。
祖父にしてみれば、部署を異動して仕事に集中することで『頭を冷やせ』という判断だったのだろう。
蒼矢は営業部から事業開発本部に飛ばされ、新興国と日本を行き来する忙しさになった。
それでも蒼矢は国内国外を問わず、出かけた先では洋菓子店に足を運んで椿の姿を探した。
椿がいなくなって時間が経つと、誰か知らない男と暮らしているのではと焦りすらら感じ始めた。
(椿、お前が逃げても必ず探し出してみせる……)
蒼矢の心の叫びは、椿には届いていない。