愛人でしたらお断りします!


真由美にとっても椿は大切な従姉妹だ。
小さい頃はころころと丸っこくて、笑顔の可愛い女の子だった。
自分のキツイ性格とは正反対の憎めない子で、少々素直すぎるところを心配していたくらいだ。

(椿ちゃん、どうしているんだろう)

父親の愚かさも、それに一時的とはいえ従ってしまった弟の行動も許しがたい。

(久我さんが探しても見つからないなんて、どこへ行っちゃたの?)

真由美は明日放送する予定の映像を見ながら、つい椿のことを考えてしまっていた。
明日の特集はローカル局で話題になったもの改めて全国放送で紹介するという企画で、地方限定のグルメもあれば隠れた名所の紹介もある人気のコーナーだ。
集中しようとした時、気になる言葉が聞こえてきた。
それは関西の系列放送局から送られてきたもので、今評判となっている洋菓子を紹介する番組だった。

『椿ちゃん、次のシューはいつ焼き上がる?』

小さなケーキ屋の店主が奥の厨房に声をかけている声だ。

(椿?)

まさかと思ったが、真由美はすぐに映像を送ってきた放送局のディレクターに連絡を入れた。『取材テープをすべて見せてほしい』と。


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