愛人でしたらお断りします!
「お久しぶりです」
蒼矢が応接室に姿を見せると、真由美は立ち上がって一礼した。
直接二人が合うのは数年ぶりだ。
「ああ……久しぶり」
お互いに改まって挨拶した後、向かい合ってソファーに腰掛けた。
ふたりは高校の同級生だが、これまであまり交流はなかった。
パーティーで顔を合わせたことはあったが、こんなふうに面と向かって話をするのは初めてかもしれない。
座るなり、真由美は話しかけた。
「いろいろとお詫びしないといけないとは思うんですが、その前にこちらを見てください」
「なにを見ろと?」
真由美はパソコンの画面を蒼矢に向ける。
「明日の番組で放送する予定の素材です」
「素材?」
「あ、放送するために編集する前の、取材したマザーテープです」
怪訝な顔をする蒼矢を無視して真由美が操作すると映像が動き出した。
どうやら温泉街のような風景だ。
湯けむりや、浴衣を着てそぞろ歩く観光客の姿。
細い道沿いに立ち並ぶ土産物屋や飲食店。
どこにでもある観光地にしか見えない。
「ここは?」
「兵庫県の山間部にあるわりと有名な温泉です。小さい町ですけれど古くから湯治場として人気があります」