愛人でしたらお断りします!
『今ちょっと売り切れてしまっていて……』
『ええ~、残念』
その会話の後だった。男性が振り向いて奥の工房へ声をかけた。
『椿ちゃん、次はいつ焼き上がる?』
『はーい!----』
微かに聞こえた声は、間違える訳がない椿のものだ。
「これは……」
蒼矢が言葉を失ったのを見て、真由美がため息をついた。
「やっぱり、彼女の声なんですね」
「間違いない。椿の声だ」
きっぱりと蒼矢は言いきった。
どんなに小さな声でも蒼矢にはすぐにわかった。椿の透き通った声質を間違えるわけがない。
「私は自身がなかったけど、久我さんならわかるかと思って」
「ありがたい。やっと見つけた」
そう言いながら真由美に見せた蒼矢の顔はなんとも言い難いものだった。
彼女からはサイボーグのように無表情だと思われていたが、泣き出すのか笑い出すのかわからないような顔を見せたのだ。