愛人でしたらお断りします!
「これで、弟の不始末を許していただけませんか?」
「許す?」
パソコンを閉じながら、真由美が言い難そうに蒼矢に声をかけた。
「許されるとは思っていませんが、少しでも心証が良くなれば嬉しいです」
「そんなこと……、もう男同士の話はすんでいるよ」
「は?」
真由美は蒼矢の言葉が信じられないのか、怪訝な顔をしている。
「彼はすぐに謝ってくれたんだ」
「そうなんですか? アイツずっと元気がないから……」
「君は弟思いなんだね。彼が元気ないのは、新作がどれもヒットしないからだろう」
「ああ、つまり椿ちゃんのアイデアがないからですね」
ズバリと真由美は言い当てた。
椿の生み出すアイデアにはなにか魔法の力があるようで、普通に美味しいだけのケーキが、特別な物に変化するのだ。
普通のモンブランが五色のモンブランになるように。
「感謝するよ、ありがとう」
そう言い残すと、真由美を残して蒼矢はさっさと応接室を飛び出して行く。
「あ、あの久我さん。店の住所とか……ま、いいか。調べたらわかるよね」
もう、蒼矢は真由美の言葉を聞いていなかった。
明日から関西に行くために、今夜中にしなくてはならないことで彼の頭の中はいっぱいになっていた。
ただ、椿に会いたい気持ちだけが彼を突き動かしていたのだ。