愛人でしたらお断りします!
愛を求めるなら


東京から兵庫県内の温泉地まで、飛行機とタクシーを乗り継いだら三時間ほどで着く。
四月に入ってすぐの土曜日だから、空港も混雑していたし飛行機も満席だ。
なんとかキャンセルが出たので、蒼矢は羽田から伊丹に飛んだ。

そこからタクシーで温泉街の中心地に着いたのは、10時を少し回った時間だった。
このあたりは少し標高が高いからか、タクシーから降りると空気がひんやり感じられた。

蒼矢がふと周囲を見渡すと、東京では散ってしまった桜が満開だ。

(花冷えか……桜を見るのは久しぶりだ)

蒼矢は坂道をゆっくり歩いて、前もって調べていたシャトンに向かう。
彼にしては珍しく足取りはゆっくりだ。
勇んでここまで来たものの、椿になんて声をかければいいのか迷いながら歩いていた。

(いきなり店を尋ねたら、椿はどんな顔をするだろう)

まずなにを言えばいいだろうか蒼矢は考えた。
彼女に変わらず愛情を抱いているが、いきなり姿を消したのには少々腹も立つ。
居場所がわかって嬉しくてたまらないのに、また逃げられたらという不安もある。おまけに、蒼矢は拒絶されるかもしれないのだ。

(参ったな)

どんな困難な仕事にも立ち向かってきた男が、まとまらない思考に手を焼いていた。 
(椿を目の前にしたら、なにも言えなくなってしまいそうだ)
そんな気さえした。




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