愛人でしたらお断りします!
シャトンはすぐにわかった。
古風な暖簾のかかる湯の町せんべい本舗笹本屋のとなり。
真由美が見せてくれた映像でイメージしていたより少し狭い間口だった。
木の格子戸を開けるとカランカランと鈴のような音がした。
「いらっしゃいませ」
まだ開店して間がないので、店内に客の姿はない。
ショーケースの向こう側に立っているのは、取材テープに映っていた店主だ。
短く刈った髪と誠実そうな眼差し。蒼矢とは正反対のタイプのようだ。
「お忙しいところ、失礼します。私はこういう者ですが……」
名刺を出しながら蒼矢は名乗った。
「あのKUGAコーポレーションの事業開発本部長さんが……どんなご用でしょうか?」
店主の笹本は少し警戒した顔を見せた。
「実は、栢野椿さんにお会いしたいのですか」
「椿ちゃんにですか?」