愛人でしたらお断りします!
「久我さん、お願いです! うちの会社へきて下さい!」
椿はそれだけを一気に大きな声で言うと、勢いよく蒼矢に頭を下げた。
「は?」
椿の態度を見て、蒼矢がその端正な顔を歪めている。
実に不愉快そうな表情で、それを隠しもしない。
「お前、自分がなに言ってるかわかっているのか?」
「はい」
「俺は、総合商社KUGAコーポレーションのひとり息子。つまり、順当に行けば親父の後の社長だ」
「はい」
椿は頭を下げたままで、蒼矢の顔を見る勇気はなさそうだ。
「まあ、祖父さんが元気だから、いつになるかはわからないけどな」
「そんな言い方しちゃダメだよ!」
椿は顔を上げて蒼矢の投げやりな言葉をしっかりと否定した。
蒼矢の祖父は椿にとっても身近な存在だ。
両親を突然失った今、寿命を揶揄するような彼の不用意な発言を聞き逃すことはできない。
「わかってるよ。冗談だ」
椿の言いたいことが伝わったのか、それ以上は蒼矢も口を噤んだ。
「だけど椿……理由くらい話せよ。俺とお前の仲だろう?」
探るような蒼矢の視線を受けたので、椿は覚悟を決めて重い口を開いた。