愛人でしたらお断りします!
どうやら笹本は仕事の話だと早とちりしているようだ。
少し困った表情で話し始める。
「近頃、支店を出さないかとかデパートに出店しないかとお声がけいただくんですが……すみません。うちは考えていないので」
「いえ、今日は栢野さんに」
「ああ、彼女は腕のいいパティスリーですからね。でも、うちだって引き抜かれても……」
蒼矢が彼女を引き抜きに来たとでも思ったのか、言葉をかぶせるように話す笹本は気落ちした表情だ。
このところシャトンが急激に注目を集めたのも彼女の力があってこそだから、
目をつけられても仕方がないと笹本は思っているらしい。
「近頃、彼女目当ての方がよく見えるんですよ」
「今日、彼女は?」
「ああ、今日は用事があって午後出なんです。シュークリームをご希望でしたら午後3時以降にお越しいただけたらご用意できます」
「プライベートな用事ですか?」
思わず蒼矢は踏み込んで聞いてしまった。ここまで来たのに会えないなんて我慢できないと思ったのだ。
笹本は蒼矢の言葉にニッコリと笑顔を見せた。