愛人でしたらお断りします!
(入園式? 椿の子ども?)
同じ言葉がグルグルと頭の中で渦巻いているが、次第に蒼矢は落ち着かない気分になってきた。
(子ども……まさか……)
なにかフワフワした掴みきれない感情が胸の奥から湧き上がってくる。
答えが浮かんできそうなのに、はっきりと言葉にならない。
蒼矢はシャトンから、坂道をゆっくりと下っていった。
坂道に沿って桜の木が等間隔に植えてあり、見事な桜並木になっている。
満開の桜の下、ピンクのトンネルの中を歩いている気分だった。
ひらりとひらりと散る桜の花びらをぼんやり眺めながら歩く。
蒼矢のジャケットにもひとひら舞ってきた。
手に取ってみると、一輪の花で見るよりずっと淡い色だった。
(桜はこんな薄いピンクだったのか)
やがて、小さな保育園の園庭が見えてきた。
(ここか……)
もう入園式は終わったのか、赤ん坊を抱いた家族連れや走り回る子どもの姿があった。