愛人でしたらお断りします!


いよいよ記念撮影でお開きという時になって、ずっとご機嫌だった優愛がぐずり出してしまった。
ホール前のステージに全員で並ぶのだが、椿がどうあやしても優愛は泣きやまない。
新入園児や保護者たちが立ったまま、機嫌がおさまるのを待ってくれているのが申し訳なくて、椿は写真をあきらめて優愛を抱いて外に出た。

初心者ママは、こんな時にどうすればいいのか途方に暮れる。

「なにが気に入らなかったのかな、優ちゃん」
「ママ、ママ~」

大きな声で泣く優愛を抱いたまま靴を履いて園庭に出ると、椿はゆっくり話しかけてみた。

「ママ」

園庭にある桜の木の下で、椿は優しく娘の背を撫でる。
風に舞う桜の花びらに気を取られたのか、少しずつ優愛の涙はおさまった。
少し眠たくなっていたのかもしれない。
そのうち撮影が終わったのか、園児や保護者がホールから出てきた。

「椿ちゃん、お待たせ」

藍里が陸仁の手を繋いで外に出てきた。優愛のベビーカーと荷物も持ってくれている。

「藍里さん、ごめんね」
「先生が優ちゃんだけ撮影しましょうかって」
「諦めるわ。眠そうだし、やっと泣き止んだところだから」

陸仁の顔を見て優愛も安心したのか、少し笑顔を見せる。

「優ちゃんはいつもご機嫌なのにどうしたのかな?」
「今まで人見知りもなかったのよ」
「そうそう、笹本屋の頑固な職人さんたちにも平気だったよね」

入園式という人が大勢いる場所だったので、優愛も戸惑ったのかもしれない。

「きっと、男性陣が多くてびっくりしたのよ。優ちゃん男の人に慣れてないもの」
「そうなのかな?」

普段、優愛の周りにいる男の人といえばシャトンの笹本かせんべい職人のおじいさんばかりだ。
園児の父親たちや保育園の若い男性保育士たちに圧倒されたのかもしれない。


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