愛人でしたらお断りします!


「私はお買い物して帰るけど、椿ちゃんどうする?」

藍里は陸仁を連れて、お昼の買い物に行くようだ。
あれこれ考えても仕方がないので、桜を見て気分を変えようと椿は思った。

「もう少し桜を見て、優愛とゆっくり帰ります」
「じゃあ、午後からお店でね」
「はい」

藍里が陸仁と手を繋いで園から出て行くのを、椿は優愛を抱っこしたまま見送った。

「さあ、優ちゃんも帰りますか? ベビーカーに乗ろうね」

話しかけてベビーカーに座らせようとしたら、優愛は首を振ってイヤイヤをする。
眠たいから椿に抱っこされたままがいいのだろう。

「優ちゃん、桜が好きなの?」
「しゅき」

小さな手のひらに、落ちてくる花びらを掴もうとしている。

「ああ、暴れないでね。ママころんじゃうよ」

椿がわざとよろけてみせると、腕の中で優愛が笑った。さっき大泣きしたのが嘘のような愛らしい笑顔だ。

その時、椿は後ろから遠慮がちに声をかけられた。

「椿……」

低くてちょっと擦れた声。久しぶりに耳にした、あの人の声だ。


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