愛人でしたらお断りします!
(まさか、まさか)と思う気持ちが先に立つが、優愛を抱いたまま椿はゆっくり振り向いた。
「椿」
今度ははっきりと聞こえた。
「蒼ちゃん……」
じっと立ち尽くしたまま、ふたりの間にどれくらいの時間が経ったのだろう。
どちらもなにも言わないし、歩み寄るわけでもない。
ただ、お互いに見つめ合っていた。
「マ~マ」
一番に口を開いたのは優愛だった。
「おはな」
優愛の手に落ちてきた花びらを、椿に見せようとしているのだ。
「ああ、優ちゃん。花びらきれいだね」
あえて蒼矢の方を見ないで、椿は娘と会話した。
椿は『なにをぼんやりしていたのか』と、今さらのように気がついた。
蒼矢がいるこの場から、自分は去らなければいけないのだ。
椿は優愛をベビーカーに乗せようとしたが、やはり抱っこがいいのか優愛は嫌がってすぐに乗ってくれない。
もたついている椿に、また蒼矢の声が聞こえてきた。
「椿、その子は……」