愛人でしたらお断りします!
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保育園の園庭を眺めているうちに、次第に人影が少なくなっていった。
入園式が終わってみんな帰って行ったのだろう。
門から少し離れた場所に立つ一本の桜の木の下に、子どもを抱いた母親の姿があった。
肩までの髪。華奢な背中。薄いピンクのスーツを着てしっかりと女の子を抱き上げたまま桜の枝を眺めている。
(椿……)
見間違えるわけなどない、ずっと探していた人だ。
椿と女の子の姿を見た瞬間に、蒼矢は電流が体に流れたような気がした。
さっきからまとまらなかった思いが、ひとつの答えにいきついたのだ。
あの腕に抱かれているのは、自分の子どもだと。
(あの夜に授かった子どもだ)
迷うことなく、そう信じられた。
(椿が自分の子を産んでくれていた。育てていてくれた)
熱い思いが蒼矢の胸に湧き上がってきた。
(俺の妻になる女性と、俺の子どもだ!)