愛人でしたらお断りします!
「マ~マ」
一番に口を開いたのは女の子だった。
「おはな」
その子の手に落ちてきた花びらを、椿に見せようとしているのだ。
「ああ、優ちゃん。花びらきれいだね」
あえて蒼矢の方を見ないで、椿は娘と会話している。
(優ちゃん……可愛い名前だ)
「椿、その子は……」
椿は蒼矢の声を無視して子どもをベビーカーに乗せようとしていたが、
子どもが嫌がる様子をみせたので、子どもを抱いたまま片手でベビーカーを持つと門へ向かって歩き出した。
「待ってくれ、椿。その子は」
蒼矢は椿の行く手に立ちふさがるように前に出た。
「その子は、俺の子だ」
蒼矢の言葉に、椿がやっと彼の方に目を向けた。
「それは……」
「あの夜、授かった子だな」
蒼矢はもう逃げても隠れても無駄だというように椿の目の前に立つ。
椿の瞳は揺れていたが、蒼矢が椿の腕を掴むと力が抜けたように息を吐いた。
「そう。あなたの娘です」