愛人でしたらお断りします!
その時、信じられないことが起こった。
椿の腕の中から優愛が手を伸ばすと、蒼矢の腕につかまってきたのだ。
そのままするりと蒼矢に飛び込むようにしがみつく。
突然のことに驚いた蒼矢だが、落とさないように小さな体を抱きしめた。
「だれ?」
丸い瞳がじっと蒼矢を見つめている。
ふにゃふにゃと柔らかい小さな体全部で蒼矢に問いかけているようだ。
まっすぐな視線を受け止めた蒼矢に、なんて答えようかと迷う時間はなかった。
「パパだよ」
「パーパ?」
もう一度問いかけてくる子どもに、蒼矢は頷きながら答えた。
「こんにちは。いや、はじめましてか?」
「パパ?」
「お名前は?」
「ゆな」
蒼矢に抱かれながら、優愛は嬉しそうに桜の枝を掴もうとしている。
背の高い蒼矢に抱かれたら、目の前に花が見えるのだ。
「おはな」
「ああ、きれいだね」
わが子との初めての会話だと思うと、蒼矢は胸が震えた。
軽々と片腕に娘を抱きながら椿の方を見ると、声も出さずに涙を流していた。