愛人でしたらお断りします!
蒼矢の腕に抱かれて桜を見ているうちに優愛は眠ってしまい、力が抜けたせいで重くなってきた。
それすら蒼矢は嬉しかった。
「椿……すまなかった」
「あなたが謝ることはなにもないわ」
「だが、俺やプティット・フルールを守るために姿を消したんだろう」
「それは……」
蒼矢が知っていることに驚いたのか、椿の顔色が変わった。
「隠さなくていい。拓真から全部話は聞いている」
確証のある言い方をされて、もう反論の余地はないと悟ったのか椿は口を噤んだ。
「探した。ずいぶん探したが見つけられなかった」
「蒼ちゃん」
蒼矢は我慢できずに椿に詰め寄った。
「どうして、子どものことを知らせてくれなかったんだ」
椿は涙を堪えているのか理由を言いたくないのか、ギュッと唇を噛みしめているようだ。
「どうして……」
もう一度蒼矢が尋ねたら、やっと重い口を開いた。
「だって、あなたはお見合いして結婚するって聞いたから」
「誰から?」
「叔父や春日あかねさんから聞いたの」
「まさか! 俺が結婚したかったのはお前だけだ。だからあの夜、俺のところに来てくれて嬉しかった」
「えっ?」
椿が大きく目を見開いた。蒼矢の話をまるで信じていない顔だ。
「お前以外を選ぶわけないだろう?」
「うそ……」
蒼矢はため息をついた。
「こう言っても、まだ信じてもらえないか」