愛人でしたらお断りします!
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椿は混乱したままだ。
いきなり現れた蒼矢。すべてを知っているという蒼矢。
そして、彼の腕で眠っている優愛。
愛の告白のような言葉を聞かされても、素直には信じられない。
「だって、あなたはわたしとは愛人みたいな関係を望んでいたんでしょ?」
「は? なにを言ってるんだ?」
椿の口からは、これまで我慢して言えなかった言葉が次々に飛び出してきた。
今の彼女は母親だ。以前の引っ込み思案の女の子ではない。
「あなたが言った『いつでも抱ける関係』って、恋人というより愛人ってことでしょう。そんな関係にはなりたくないもの」
「まさか! 酷い誤解だ!」
蒼矢の声に驚いたのか、抱かれたままの優愛がぴくっと動いた。
蒼矢が背を撫でてやると、また眠りに落ちたようだ。
椿は蒼矢を真っ直ぐに見つめて言い放つ。
「蒼ちゃんの愛人にだけはなりたくなかった。蒼ちゃんが誰かと結婚してからも愛人でいるなんて耐えられないと思ったから……」
「どうして……いつからそんなふうに思ってたんだ?」
蒼矢の整った顔は、椿の言葉に打ちのめされたのか苦痛で歪んでいる。
「パーティーの夜、社長室であなたが言ってたわ」
「誤解だ! お前、俺が本気で好きだとは気づいていなかったんだな」
椿はコクリと頷いた。
「そんなこと、一度も言われていないもの」
目の前の蒼矢が天を仰ぐのが見えた。