愛人でしたらお断りします!
「結婚しよう、椿」
「もっと……もっと言って」
涙を拭うことも忘れて、椿は蒼矢を見つめた。
「ああ。好きだって言えばいいか? 会いたかったって何度でも言おうか?」
「愛してくれるの? 私と優愛を?」
「もちろんだ。愛してる」
夢に見た、蒼矢からの愛を告げる言葉だった。
彼がまっすぐに自分を見つめながら優しい声で告げてくれる、愛の言葉。
「結婚しよう、椿。そして三人で一緒に暮らそう」
器用にも蒼矢は優愛を抱くのとは反対の手で椿を抱き寄せた。
泣いている椿をその胸にもたれかけさせて、蒼矢は話し続けている。
「俺たちは、祖母さん同士が決めた婚約者だったらしい」
「……知らなかった。聞いたこともなかったわ」
「きっと亡くなった椿のお父さんやお母さんは知っていたんだろう」
今となっては確かめることもできないが、本当ならば、こうなった運命をみんな認めてくれるはずだ。
「椿、プロポーズの返事は」
「嬉しい……お受けします」
蒼矢は優愛を抱いたまま、椿も片方の腕の中に強く抱き込んだ。
「ああ、やっと帰ってきた」
「はい」
「もう、逃げるな」
「はい」
「どこへも行くな。椿」
椿はもう声が出せなかった。
嬉しい涙がとめどなく流れてきて、蒼矢の顔も周りの景色も滲んでしまってよく見えない。
ただ、彼の温かさに自分と優愛が包まれていることだけが実感できたのだった。