愛人でしたらお断りします!



結婚式は内輪だけで行い、蒼矢が栢野家に住むようになった。
お隣の久我家には、社長から相談役になった朔太郎と、ヨーロッパ総局から帰国してKUGAコーポレーション社長に就任した蒼矢の父と母が住んでいる。

枝折戸を抜けて両家を行き来するのは、今や優愛の特権だ。
ただ、危ないから久保田夫妻のどちらかに必ず付き添ってもらっているが。

「ママ、今夜のご飯はなあに?」
「今日はパパが帰ってくる日だからご馳走にしましょうね」
「わあい!」

相変わらず忙しい蒼矢は、今日はベトナム出張から帰ってくる予定だ。

「パパ、そろそろかなあ~」

再会した頃は、蒼矢がパパだと聞かされても優愛にはなんのことだかわからない様子だった。
それから蒼矢は涙ぐましい努力をして、娘の信頼を得たのだ。

一緒に庭で遊んだり絵本を読んだりしたし、早く帰れた日には寝かしつけるときにも添い寝をしていた。

椿は優愛の赤ちゃん時代を蒼矢に見せられなかったのを申し訳なく思ったが、
蒼矢はひと言も椿を責めなかった。すべて自業自得だと戒めているらしい。


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