愛人でしたらお断りします!
「あの人、今まで仕事らしいことをなにもしていなかったろう?」
蒼矢も信じられないというように首を横に振っている。
「肩書は、顧問だけど……」
「以前になにかやらかしたから取締役を首になって、顧問の肩書で遊んでる人じゃないか」
歯に衣を着せない言い方で聡志を無能と言い切ると、蒼矢は行儀悪く舌打ちをした。
「だけど、最近になって大手スーパーチェーンの会長さんと親しくなったらしいの。その人にうちの会社を吸収合併してもらって、全国のスーパーに出店する約束をしたって」
要するに老舗の名店プティット・フルールの名を消滅させるという、創業者一族とも思えない提案なのだ。
話を聞いていた蒼矢の表情が変わってきたので、椿は少し感情的に言い過ぎたかと不安になった。
「それって……高級路線を守ってきた亮おじさんの遺志と真逆じゃあないか」
「そうなの。父は新しく郊外型のカフェとして事業を展開していくつもりだったから、全国のスーパーに店を出すなんて考えられない……」