愛人でしたらお断りします!
コクコクと椿は首を縦に振っている。
「俺がお前を助けるのには条件がある」
「なんでも言ってください!」
椿はパッと顔を上げて、蒼矢の目を見つめてきた。
「お前が社長になるなら、助けてやってもいいぞ」
「ええっ?」
蒼矢は条件つきなら助けると言ったが、その提案は椿にとって信じられない言葉だろう。意味がわからないのか、目を丸くしたまま固まった。瞬きさえ忘れているようだ。
「俺がプティット・フルールに出向するのは、お前が社長になるのが条件だ」
「えええ~っ!」
やっと意味を理解した椿をよそに、蒼矢は唇を少し歪めて微笑んだ。
爽やかそうに見える蒼矢の笑顔の裏には、腹黒さも見え隠れする。
だが、条件を聞いて慌てふためいていた椿にはそれを察する余裕もなかった。
お互いに見つめ合ったまま沈黙していたら、青山にあるどこかの教会で鳴る鐘の音がかすかに耳に届いてきた。
時刻を告げるものか結婚式で打ち鳴らされる鐘なのかわからないが、
カラーンカラーンと鳴るそれは、椿の胸の内とは裏腹に天空から響いてくるような清らかな音だった。