愛人でしたらお断りします!
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蒼矢と青山のレストランで話し合った日から、三ヶ月が過ぎた。
今や真夏だ。早朝から栢野家や久我家の広い庭でも濃い緑の木々から蝉しぐれが降りそそぐ。
「おはようございます」
毎朝8時、栢野家のダイニングルームへ挨拶と共に爽やかな顔を見せるのは椿の秘書だ。
「おはようございます……」
秘書にしては上質なスーツを着こなしている。
キリリとした顔立ちを際立たせるように後ろにサラッと流した髪。
極めつけは、その甘い声だ。
「朝食はすみましたか? 社長」
「はい。大丈夫です。すぐに出社できます」
「本日のご予定は……」
蒼矢は毎朝、椿を迎えに来る。
社長となった栢野椿に寄り添う臨時秘書こそ、久我蒼矢だ。
彼は、椿が社長になるなら手助けをしてやると言ってプティット・フルールに
総合商社KUGAコーポレーションから出向という立場で入り込んだのだ。
今や彼は社内社外を問わず、いつも椿に付き添っている。
180cm近い長身の蒼矢の前を150㎝少々の椿が歩くのは、周りから見れば不思議な光景だろう。