愛人でしたらお断りします!
「蒼ちゃん、今日のスケジュールは覚えました」
「社長、久我とお呼びください」
秘書になった途端、蒼矢の態度は一変した。
言葉使いも丁寧を通り越して嫌味にさえ感じられる。
「は、はい。久我さん」
「呼び捨てで結構ですよ、社長」
ニヤリと笑う蒼矢の顔を見ると、この状態を面白がっていると椿は穿った見方をしたくなった。
毎朝、椿の寝起きが悪いのは蒼矢のこの接し方のせいかもしれない。
思わずため息をついた椿に、家政婦の久保田が声をかけた。
「椿様、お化粧を直しましょうか?」
「あ、久保田さんすみません」
久保田幸子は椿が生まれる前からこの屋敷で働いていた栢野家の家政婦だ。
現在は屋敷の離れに幸子の夫で栢野家を取り仕切ってくれている執事の久保田浩介と住んでいる。
久保田夫妻と、プティット・フルールを退職後に通いで来てくれているコックの宮崎研一の三人が両親に代わって椿を見守ってくれていた。