愛人でしたらお断りします!
椿は社長に就任してから少しでも大人っぽく見せたくて、毎日きちんとしたスーツを着て髪もひとまとめにしている。
これまで化粧はほとんどしたことがなかったが、目元をキリリと見せたくて濃いアイラインも入れてみた。
椿はお化粧の出来栄えや、服装がTPOにキチンと合っているかを秘書に聞けないで困っていた。
ただでさえ男性との会話は苦手なのに、相手が蒼矢だと妙に緊張してしまう。
仕事もできないのに見栄を張っていると思われたくないし、恥ずかしさが先に立ってしまうのだ。
今朝も自信がなかったのが見てとれたのか、家政婦の久保田幸子が声をかけてくれた。
「少し目元が滲んでしまっていますよ」
椿の部屋で、久保田がそっとアイラインを直してくれた。
「ありがとう、久保田さん。私、お化粧が苦手で……」
「まだ慣れないからですよ。はい、できました」
シンプルなドレッサーの前に座る椿は俯きがちだ。
「が、がんばります……」
「ほら、肩の力を抜いて」
メイクを直した幸子が、軽くポンと椿の肩を叩いた。
「そうちゃ……、いえ久我さんにはメイクのこととか聞きにくくて……」
「お気持ちはわかります。でも、彼も椿さんのために秘書をやってるんですから
あれこれ甘えてしまえばいいんですよ。今日の私どう? ってふうに」
年甲斐もなくポーズをとって幸子は笑わせようとしてくれたが、逆に椿は焦ってしまった。
「とんでもない! 蒼ちゃんに甘えるなんて……未来の奥様に申し訳ないわ」
「は?」